再現レシピ研究家、稲垣飛鳥―味覚の冒険家が語る料理の秘密

外食チェーン店の定番メニューには多くのファンがいます。「これ!これ!」と思わせる盤石の味。大部分の人は当然食べて満足するわけですが、世界にはそれだけでは飽き足らず、定番の構造を理解し、味の再現に向かっていく研究家がいるのです。狙った味に近づけるって凄い技術。果たしてその再現技法とは、どのようなものなのでしょうか?

今回は、あかふさ食品の「おすすめレシピ」でご協力いただいた再現レシピ研究家・稲垣飛鳥さんにお話を聞きました。キーワードは「味より、香り」です。

 


the鮭フレークを使った「ポテアボカップ」

鮭ポテアボカップ

 

Q:  この度はレシピ開発ありがとうございました。最初に「おすすめレシピ」で開発いただいた料理名と、お料理する上でのポイントを教えてください。

基本は混ぜるだけなので、すごく簡単だけど食材は結構使うから名前は迷いましたね。
結局、家族で話し合って決めました(笑)
題して『the 鮭フレークのポテアボカップ』です。

 

まず、この「the 鮭フレーク」の感想ですけど、すごいですね!美味しかった!最初の一口で添加物とか余計なものが入っていないのがすぐわかりました。

私は普段あまり鮭フレークを食べないんですよ。なぜかと言うと「鮭とはちょっと違うかな〜」っていう鮭フレークが多い気がしてて(苦笑)
でも、これは違いますね。ちゃんと鮭。臭みもないし、魚醤がいい仕事してますね。これは友人にも紹介できます。

 

そんな「the 鮭フレーク」を使って、子供が食べられるようなアレンジを意識してレシピを考えました。

 

 

餃子カップ

 

まず器ごと食べられたら面白いと思って、餃子の皮でカップを作りました。

使い切れず余ってしまいがちな餃子の皮の有効活用です。
といっても100円ショップで売ってるシリコンカップで成形して、トースターで焼くだけ。とても簡単です。

 

カップの中に入れる具材ですが、今回は鮭フレークと、じゃがいも・クリームチーズというイメージが最初にありました。こちらの鮭フレークは、生臭くないし、身も細かくて食べやすい。好きなお子さんも沢山いると思います。

 

でも先入観で魚が苦手、という子がいるんですよね。だから、子供たちが大好きなじゃがいもと一緒に食べてもらおうと考えました。

じゃがいもとクリームチーズが入ると魚の匂いが消え、魚のいいアクセントだけが残ります
ここがポイントですね。

 

小さいお子さんならここまででも十分ですが、ここに粒マスタードの風味とアボカドの濃厚さを足すと、大人っぽい複雑さが出てさらに深い味わいになります。詳しくはレシピをご覧になってみて下さい。

 

 

鮭ポテアボカップの中身

 

 

再現レシピの秘密は「味より、香り」

稲垣飛鳥

 

Q:  再現レシピって、とても難しいと思います。どのような手順で試作・開発されるんでしょうか?

 

まず一番は、香りなんです。再現で大切なのは、味覚より嗅覚。
食べるのは、香りの分析が済んでからでいいんです。

 

香りから入るっていうのは、実体験があったからなんです。息子の自由研究で目隠しをして、鼻をつまんで味覚だけで何を口に入れているか当てるという実験をしました。

これが見事に全然当たらなかった。カルピスとりんごジュースの差がわからなかったんです(笑)それからは本当に香りに集中するようになりました。

だから、再現する対象が決まったら、最初にその商品の匂いを嗅ぎます。
商品全体の匂いを嗅いで、その後、商品を分解して匂いを嗅ぐ。

 

例えばハンバーガーを再現したい場合は、バンズ、野菜、パティ、ソースなどを個々に分けて匂いを嗅ぐんです。それぞれの香りを確かめる。ここで気をつけたいのは、できるだけ食材が混ざっていない状態の場所を嗅ぐということです。ハンバーガーだと、お肉とソースが混ざっているところは、もうマリアージュになってしまっていて美味しいけど元の味や香りがわからなくなるんです。

 

だから、できるだけソースとお肉が一緒になっていないところの匂いを嗅いで、それぞれを分析します。オーダーする時は「ソースを多めでお願いします」って言ってますね(笑)

 

あと、商品表示部分の原材料名はあまり参考にしません。原材料名にある調味料を使っても、ブランドや産地の違いで味も違ってしまうケースが結構あるんです。
醤油って書いてあっても、甘い、しょっぱいがあるじゃないですか。その違いが出ちゃうのと一緒です。それよりも香りを頼りにした方がいい。

不思議なんですけど、原材料名に書いてない調味料や材料を使った方が再現性が高いってよくあることなんです。面白いですよね。

 

再現レシピで一番難しかったのは餃子。

稲垣飛鳥

Q: 今までで一番再現が難しかったレシピってなんでしょうか?

中華チェーン店の餃子を再現するのが一番大変でした。家庭で作る餃子よりもタネが柔らかいんです。この柔らかさを再現するのが超難問でした。

 

油の量を変えてみたり、お肉を変えたりと試行錯誤したんですがどうしても再現度が低い。これは困った…と途方に暮れていた時に、息子がボソッと「片栗粉を使ってみたら?」って言ったんです。その手があったかー!と早速試してみると、完璧に仕上がりました。片栗粉がちょうどいい柔らかさをキープしてくれるんです。

 

息子よ、ありがとう!でしたね。テレビの企画だったんですが、皆さん本当に褒めてくれて嬉しかったです。小さい時から色んなものを食べさせてきたからか、息子は、もしかしたら私より舌が繊細なのかも。これからも助けてもらうことがあるかもしれませんね(笑)

 


 

いかがでしたでしょうか。
再現レシピは、材料が同じなら成立するだろうと思っていたんですが、そんな簡単な世界じゃなかった!味覚より嗅覚が大事、同じ材料じゃなくても再現はできるというのは金言でした。私達、あかふさ食品の商品開発にもつながるお話だったと思います。ありがとうございました。

稲垣飛鳥
稲垣飛鳥
稲垣飛鳥

再現レシピ研究家・料理家・フルート奏者。

シャトレーゼをはじめとした大手食品販売店マニア。

節約、時短、再現をモットーにレシピを開発し、メディア出演多数。

Youtube「asucafe channel」配信中。

Instagram:@asucafe

著書にレシピ本「稲垣飛鳥さんのおうちで外食気分のごはん」(Benesseコーポレーション)、「『まるでお店!』な♡ほめられレシピ」(講談社)がある。